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上海進出の日系企業の間には最近、今こそ民間交流を積極的に推進すべきだという声が、フツフツと沸きあがりつつある。それを10年前からマラソンというスポーツイベントを通じて実践しているのが東レである。
もともと同社の企業理念の中に社会貢献が唱われ、1960年代から実践し、数々の実績を残しており、上海マラソンとて特別のことではないといいつつも、中国を拠点としたワールドワイドな企業展開も視野に入れるという、したたかさも伺える。
今年10回大会を迎える上海マラソンはどういう経緯で始められたのか
八木田 : もともとは岐阜にあるわれわれのお取引先である「ラブリークイーン」という縫製会社社長の井上様が、マラソンが非常にお好きな方で、1996年に上海で市民マラソン大会への協賛を始められた。その方が当時の弊社の平井繊維事業本部長(現相談役)に、「いずれこの上海市民マラソンは大きくなるだろうから、私のところでは手に負えなくなる。東レで引き受けてくれないか」という話を持ってこられた。1996年と言えば、ちょうど東レは南通市経済技術開発区に繊維事業拠点構築のために100万平米の用地を確保し、その最初のプロジェクトである染色工場が稼動した年で、われわれの方も華東地区でなにか社会貢献ができることはないかと考えていた頃だ。市民貢献にスポーツは最適だということで、そのお話を引き受けさせていただいた、というのが経緯だと聞いている。
社会貢献と言っても、私企業である以上、それなりの損得勘定があるのではないか
八木田 :この活動を始めた時にはそういった損得勘定はなかったと思う。中国に進出したからには腰を据えて事業を展開したいと考えていたので、マラソン活動によって東レの商品を紹介したいということではなく、最初は東レ自体の知名度を上げたいという程度だった。
しかし、その後2003年に「TOREX」という弊社の高付加価値繊維ブランドの展開を日中同時に開始したが、そのブランド宣伝に結果的にこの市民マラソンは大きな役割を担ってくれることになった。しかし、根本的には華東地区への社会貢献という部分に重きを置いているので、私どもとしても極力、宣伝臭さをなくし、地域が喜んでくれるイベントにしたいと努めている。
この冠協賛のマラソンを通じて、意外な現象といったものはあったか
八木田 :「TOREX」の宣伝になったこともわれわれにとっては意外なことだった。さらに毎年南通の市政府の方々がバスを連ねてやって来てこの市民マラソンに参加してくださっており、南通でも恒例行事となっていること。華東地区ではこの他に儀征でのフィルム事業も行っており、南通に加え、儀征の方々も参加し、上海市体育総会の及び市民の方々と一緒になってこのマラソンを盛り上げようとしてくれていること。それらも予想以上でのことで、ありがたいお話だ。
東レには、もともと企業理念に社会還元が位置づけられているというふうに聞いているが
八木田 :企業財団の草分けとして1960年から東レ科学振興会という財団を組織し、科学関係で社会に貢献された毎年表彰している。1993年からは、特にASEANに重点を置いた同様の活動もしている。
日本の伝統芸能である能や文楽などの国内外公演などに協賛し、さらに衣裳提供などの支援や、日本、韓国、中国の民族楽器によるオーケストラの日本および海外公演を公演するなど、芸術・文化支援も行っている。
「社会貢献」というのはもともと東レの企業理念の中に組み込まれている。 ”私たちは新しい価値の創造を通じて社会に貢献する“という一項目があり、われわれはメーカーなので、地域社会と関わっていかないと運営はできない。だから「それぞれの地域社会に根ざした活動」というのは「安全」「環境保護」の次に重要な弊社の社是となっている。
今後の対中国戦略はどういったものがあるか
八木田 :
繊維事業でいうと、日本の繊維業はアジア通貨危機が起こってから、最終的な製品の輸入が多くなっており、糸や織物、編物などのいわゆる”ミル消費“が空洞化していっている。その一番の輸出国は中国だ。1999年〜2001年に、さかんに中国脅威論が言われていたが、製造業がなくなれば日本そのものの存在価値もなくなる。
製造業の中でも、繊維産業は最初に危機にさらされる業種なので、常にそういうことを一番に経験している。だからわれわれは日本で消費されるものは日本で作っていこうと思っている。そのためには日本のテキスタイルをきちんと残さなくてはいけない。
縫製が空洞化するのはある程度仕方がないかもしれないが、日本で作った素材というのはやはり違うと感じている。日本の素材はまだまだすたれないと思う。日本も製造業として生きるためには、輸出しなくてはいけない。輸出するためには競争力が必要で、それは価格競争力だけではなくて、品質、製品開発力なども重要になってくる。そういう部分では日本はまだまだいけると思っている。
中国の事業所としては、輸出と内需、どちらに重きを置いているのか
八木田 :
その答えの前に繊維事業について言えば、私は日本の素材と中国の縫製、この2つをリンクさせるつもりだ。つまり日本と中国が共生するという方法があると思う。お互いがお互いの持っている力をうまく使い、日本事業と中国事業、両方でより多くの部分をカバーしていく。そのために中国製品でもって販路を獲得し、そこに日本の新しい製品を乗せていこうと思っている。また、通商摩擦というのはどうしても起こるので、一点集中にならないようバランスを保っていくつもりだ。
内需・輸出の比率だが、直接輸出される商品は20%程度。残りの80%は、中国内で糸を加工したり、織物にしたり、またその織物を最終的に中国で縫製して輸出する間接輸出になる。間接輸出を含めるとこの数字は逆転するだろうが、われわれが直接輸出して外貨を取るのは20%くらいだ。
これからの中国との付き合いで一番大切なことは何だと思うか
八木田 : 工場のある地域の市政府、住民、そして従業員、この3者が一体感をもってくれることが重要だと思う。東レグループとして雇用を守っていきたいし、そのためには安全と環境にきちんと配慮していくつもりだ。
もう一つは研究。東レは過去において超極細繊維、炭素繊維、PMMAステレオコンプレックスポリマー、インターフエロン、プロスタグランジン全合成など、世界に先駆けて開発した独創性の高い技術を持った会社だ。それで培ったいろいろな知識を中国の優秀な方々に伝えたいということで、上海と南通にTFRCという東レ研究開発施設を作った。そういうところから開発された商品も中国市場に根付いていってもらいたい。
東レの商材から言えば、環境や省資源につながる研究も進められている。それもこれからの中国の発展に貢献することができると思う。またわれわれのほうも、中国の得意な部分を事業に取り込みながらやって行きたい。
(インタビュアー・江 藤)
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